智恵子抄の旅3

智恵子抄の中で大事な二つの山、「安達太良山」と「磐梯山」。
この二つの山は、光太郎と智恵子にとって、両極端の意味を持つ一種の象徴のように思います。


阿多多羅山の山の上に
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
(あどけない話) 

安達太良山は、 智恵子の故郷二本松から望める、幾重にも重なった峰がとても美しい山です。
二本松市内の高台に何カ所か登ってみましたが、おそらく一番きれいに見えるのが霞ヶ城公園(二本松城跡)の天守台からの眺めではないかと思います。
二本松の街並と安達太良山の山並みと、遠くに阿武隈川、そして智恵子が「ほんとの空」と言った青く大きな空を体中で感じることができたのが、この場所でした。
智恵子の好きな二本松の街、そして二人で眺めた安達太良山は、なにか二人の幸せの象徴のような気がしてなりません。
旅の前半にこの地を訪れたことは良かったなと後で思いました。
しかし滞在中、安達太良山の山の上にはずっと雲がかかっていて、結局全貌を見ることはできませんでした。


二つに裂けて傾く磐梯山の裏山は
険しく八月の頭上の空に目をみはり
裾野とほく靡いて波うち
芒ぼうぼうと人をうづめる
半ば狂へる妻は草を籍いて坐し
わたくしの手に重くもたれて
泣きやまぬ童女のやうに慟哭する
ーわたしもうぢき駄目になる
(山麓の二人) 

旅も後半に差し掛かります。
智恵子の分裂症の症状がいよいよとなってきたとき、光太郎は智恵子を湯治に連れて行きます。
その一つが裏磐梯にある川上温泉というところ。
ここは猪苗代湖から五色沼の方へ抜ける道で、温泉は山間にあり、宿も少なく車はほとんど通り過ぎていくようなところでした。
裏磐梯というと、かつて智恵子がはつらつと登山をしたりスケッチをした場所だったそうです。
その思い出の場所に、変わり果てた姿で訪れ、もうじき駄目になると恐怖におののく智恵子と、そんな妻を見る光太郎の気持ちはどのようなものだったでしょう。
このあまりに美しい景色と、崩れていくものの、凄まじいほどに鮮烈なコントラストが、この詩を作らせたのだということがわかります。

磐梯山の噴火によってできた五色沼一帯を散策しました。
夜明けとともに出発、朝の澄んだ空気の中歩くのは、本当に心身が清浄にされました。
自然に包まれているときの人間はなんと謙虚で正直でいられるのでしょう。
雑踏の中で目にするもの、耳にするもの全てが偽りであるような気がしてしまうほどです。
智恵子が、年に数回は故郷の空気を吸わなければ体が保たなかったというのは、彼女が真から素直な人だったという証拠だと思います。
朝の磐梯山を狙ってシャッターチャンスを待っていましたが、結局ここでも雲が切れず、まっさらな姿を望めることはできませんでした。
それにしても、エメラルドグリーンの湖面に磐梯山が鏡のように映るのが、なんとも言えず美しかったです。

写真がなく文章ばかりでつまらないでしょうが、写真は10/3の本番のお楽しみということで。
私のスナップも追々載せます。

つづく

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