『夜、うつくしい魂は涕いて 中原中也14の歌』制作のはなし①

荒野愛子3枚目となるアルバム、「夜、うつくしい魂は涕いて 中原中也14の歌」の発売が10月5日に迫ってきました。このアルバムの完成までにはいろいろな経緯がありますので、少しずつ文章にしていきたいと思います。

今回のアルバムで、作曲のテーマとしたのが、日本近代詩人の代表的存在ともいえる、中原中也の詩です。中原中也は、明治40(1907)年生まれ、山口県出身の詩人です。生前に一冊の詩集『山羊の歌』、没後に『在りし日の歌』が発表され、30年という短い人生ではありましたが、その詩作の才能は当時から文壇で認められており、後世にも大きな影響を与えました。
私が中也の詩と出会ったのは15年以上前になりますが、彼の出身地である山口県から海を渡ったお隣の北九州市で行われた朗読の公演に、ピアノ演奏で参加させていただいたときのことです。私はまだ若かったので詩の意味はよくわかりませんでしたが、「汚れつちまつた悲しみに」や「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」などのフレーズは印象的に記憶に残りました。
それからしばらくして、中也風に言うなら、幾時代かがありまして、私も人生の滋味を少しばかり味わうようになった頃、再び中也の詩集を開いたのです。そうすると、そこには実に洗練されたピュアな詩の世界が広がっていて、なぜか、その詩に強く共鳴を覚えました。それからすぐに自分の企画する朗読会で中也を取り上げるようになりました。
だいたい2年くらいかけて、今回のアルバムに収録した14曲を作曲しました。「中原中也14の歌」と副題をつけましたが、14篇の詩は私がランダムに選んだものです。中也の詩は様々な性格の詩があるので、なるべく多様な内容になるよう心がけましたが、やはり私の好きな中也の側面が強調されることは避けられなかったかもしれません。14篇の詩は全て『山羊の歌』と『在りし日の歌』から選びましたので、有名な詩ばかりです。

詩をテーマに作曲をするというと、詩にメロディーをつけて歌われていると想像される方が多いかもしれませんが、このアルバムでは、節をつけて歌われることはなく、すべて楽器だけのインストゥルメンタルです。この部分は説明しづらいのですが、詩から受けた印象や感覚をもとに音楽でそれを再現したといいますか、実際この作業はとても個人的なものだと思います。聴くかたは、音楽の元となる詩を一緒に楽しんでいただいても、またはまったく切り離して音楽だけ楽しんでいただいても良いと思います。
ですので、なるべくいろんな楽しみ方ができるよう、今回、CDと別にブックレットがついています。中也の詩を日本語と英語で読めるようになっております。このアルバムを制作するにあたり、英訳詩を載せることは一つのこだわりとして必ず実現させたいことの一つでした。というのも、中也の詩は残念ながらまだ主だった翻訳の本が出ていません。日本語のわからない方に中也の素晴らしさを伝えたいという思いもありましたし、自分の音楽を言葉で伝えるためにも、これは必要なことでした。そのような思いでいましたら、本当に幸運なことに、ある素晴らしい翻訳家の方と出会うことができました。

(つづく)


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